遁世雑記其ノ二十二 「バス日記10 白昼酔いどれ、くそたわけ」

人生に思い悩むあまり、いっそのことライターと花火と小麦粉を食って粉塵爆死でもしてやろうかというワイルドでロックでセンセーショナルでキチガイじみた葛藤に花咲かせていた日のことである。
バスの後段の最前列、つまり乗車してくる客が一番見える位置に座っていると、K停留所にて毒殺された大門圭介みたいな顔のジジイが乗り込んできた。毒殺されてなければ渡哲也に似てるのかという疑問はさて置いて、このジジイが俺の眉間に皺を3本作らせた元凶となるのである。
白昼にも関わらず酒臭いのだ。
この日、鼻炎によって鼻づまりが半端ではなかった俺の鼻腔を突き破るほどの臭気である。
別に真昼間から酒を飲もうが情事に励もうが人に迷惑さえかけなければ好きにすればいいが、この手の酔っ払いがバスに乗ってきて人に迷惑をかけなかった例がない。
案の定、酔いどれジジイは「ぁ゛ぁ゛ぁ゛ハァ~」還暦迎えたAV男優みたいな謎のうめき声を発しながら後部座席に邁進し、「どっこしゃーはらっしゃぁぁぁっほい」と喚きながら席に着いた。

もうこの段階で俺は通学の読書タイムを犯されて鬼瓦のような顔になってたと思うんだけども、勿論これだけにとどまらず、後部座席より隣の客に絡む酔いどれの声が聴こえてきた。
「ががぁぁ、寒いすなぁ、だはァ」
この酔いどれが俺の隣に座らなかったことを神に感謝していると、隣人の相槌が聞こえた。
「寒いなぁ、この辺は特に」
その声色たるや非常に野太く、野性的でドスの利いた老人を思わせた。
「ホッファァ、どびゃァ」
「ご機嫌でんな」
「あぁ、それりやァ、がハハァ」
「どこで引っかけとったんや、え?」

いつもの如く酔いどれジジイの放蕩不羈によってバス中が迷惑を被るかと思いきや意外や意外、隣の老人たるや気炎万丈、酔いどれと互角に渡り合っているのだから面白い。これがコミュ力か。

バスはなおも進み、M停留所に泊まる。ここでもう一人客が乗ってきたんだけども、551の豚まんが無いときの関西人くらいテンションの低いおっさんであった。眉毛はエイドリアン・ブロディ、目は中村静香、口は薬師丸ひろこ、更になで肩という何もかもが垂れ下がってるあまり今にも地面に埋まりそうな中年のおっさんであるが、これで更に謎の笑顔が描かれたヨレヨレのTシャツにジーパンを着こなし、手にはキャリーケースを持ってるものだからもはや意味が分からない。
おっさんは負のオーラをバス中にまき散らしながら通路を挟んで反対側の席に座った。

バスが次の信号で停車した瞬間である。俺の背後から「どばァくしゃラァァァァ!!」と、とんでもない音量のくしゃみが聞こえてきた。これにはさすがの乗客たちも吃驚仰天、前方に座ってる舟を漕いでた女子高生は跳ねあがるように飛び起き、斜め前方の物理学者みたいな爺さんは万有引力を発見した瞬間のニュートンみたいな顔で振り向き、運転手はバックミラーに限界まで開いた目を覗かせ、俺はガラスにもたれかかっていたものだから頭を思い切りぶつけて悶絶していた。

しかしながらそれ以上に驚いたのは隣にいるおっさんの反応である。
目をかっと見開いたかと思うと口元をにやつかせながらゆっくりと背後を振り返った。これで彼が「Here's Johnny!」と叫んでたらパズズにとり憑かれたジャックニコルソンになるんだけども、とにかくその狂気を秘めた笑みたるや酔いどれジジイの存在よりも恐ろしく、俺は見てはいけないものを見てしまったかのように縮こまり小リスのように震えていた。件の老人との会話が再び聴こえてくる。
「鼻がだァ、だらァ、ドわっはァーォ」
「えらい大変や、おう」
「くゎははははは!!」
「ご機嫌、ご機嫌」

酔いどれを物ともしない老人の対応力に一時は感嘆したものの、よくよく考えれば序盤から何一つ会話になってない。
まぁ会話が成り立つはずもないのは一目瞭然なんだけども、しかしながら、このドスの利いた老人の外見を一目見てやろうとさり気なく振り向いた瞬間、俺の目に信じられない映像が飛び込んできた。







2014y01m17d_180147969.jpg







そこに座っていたのはドンキーコングであった。
いや、生物学的に云えば"ドンキーコングもどき"なのだと思うが、そのゴリラじみたいかつい皺だらけの顔、明らかに格闘技経験者である恰幅の良い体付き、その全てが彼をドンキーコングであると確証付けていた。

かつて俺がバスで遭遇した人の中で湯婆婆に酷似した老婆 がいたが、あれを容易く凌駕するほどのものである。
何と云えばいいか、ドンキーコングと渡辺哲と安岡力也を足して渡辺哲と安岡力也を引いたような感じであると説明すれば分かってもらえるだろうか。

俺が生ドンキーを見て興奮している間に、バスは終点から2つ前のH停留所に止まっており、隣に座っていた謎のおっさんが降りようとしていた。何から何まで謎のおっさんである。
これが金田一なら後々あのおっさんはバラバラ死体で発見されるポジションだなと考えている間に、バスは終点に到着した。読書の"ど"の字も出てこないような通学の時間であった。

俺は両替しなければならなかったので座ったまま待機。仰天女子高生やニュートンが降りていき、白昼酔いどれが「うぇあー」と酒の臭いをまき散らしながら降りていき、最後にドンキーコングが降りるんだけども、何と5歳くらいの男の子と女の子が一緒にいたのでディディとディクシーもおるやないかと我ながら鋭いツッコミを脳内で繰り広げながら、孫が一緒だったことに驚きを禁じ得ないという表情をしながらバスを降りたのであった。





いとをかし、いとをかし
関連記事

スポンサード リンク







プロフィール

寂々兵

Author:寂々兵
都会の映画祭や名画座に指を咥えながら日々を過ごす田舎在住の一介の映画好き。たまにライターなども。ヒモになりたい。

好きな監督は
ジャン=ピエール・メルヴィル
クロード・シャブロル
エドワード・ヤン
アレックス・デ・ラ・イグレシア
岡本喜八
など。

最近は専らゼロ年代以降ヨーロッパの喜劇映画や80年代未ソフト化作品の大海をさすらっています。

Twitter
http://twitter.com/CinemaYouth3919

Filmarks
http://filmarks.com/users/Monteiro

カウンター

ブログ内検索

人気記事