遁世雑記其ノ十三 「バス日記7 恐怖、無銭クチャラー親父の不羈奔放」

1年ほど前の、水曜か木曜か金曜(もしかしたら月曜か或いは火曜)の話になるが、通学のバスにて、かつての

・ドアを叩きまくり難解単語を連発して両替で道を塞ぐけったいなババア
・大声で電話して唸り散らして運転手の忠告を無視して演歌を歌う騒音ババア

に匹敵する、自由奔放すぎるおっさんを見かけた。

その日、俺は一番後ろの左側の席に座り、眠い眠いと思いながら本を読んでたんだけども、同じ大学の生徒が次々と乗ってくるのに混じって、小柄で初老のおっさんが最後列の右側、つまり俺の反対側に座った。
で、そのおっさんと俺の間に、大学の女の子(知らない子)が座った。
この状態でバスが発車する。

バスが天下の姫路城前に差し掛かった時、静かに座っていたおっさんが本性を剥き出しにした。
おっさんはまずポケットに手を突っ込んだかと思うと、おもむろにあられを取り出して貪り始めた。何が面白いかって、ポケットからあられの袋を取り出すのではなく、ポケットからあられを直接取り出して貪っているのである。
ほんでこのおっさん、歯が頑丈なのか、噛み砕く時の音が尋常ではなく、運転手の「次は郵便局前」の音を掻き消すレベルの「ガブリ」、否もはや「ズブリ」とか「モブリ」とか「デブリ」とか、人生で1回聞くか否かの擬音であられを喰い続けている。この時点でバス内にはあられの匂いがプンプンしているわけであって、決して嫌な匂いではないんだけども、朝のバスくらい爽やかに眠らせろって話である。

そんな感じで、四次元ポケットも真っ青なくらい次々とあられを繰り出すおっさん、バスが交差点を左折した際に喉に詰まったのか、急激にむせ始める。
そのむせ方も尋常でなく、
「うぉっしゃおんぶるおらぃ、わっしゃーほぎゃっそいそい、うぇってぽんがぁそやぁーほヴぉぉぉぉ」と野生動物の交尾みたいな唸り声で派手にむせ始めた。
運転手を始めとしたバスの乗客たちも、
「なんやサバンナの動物が乗ってんのか」
「あぁおっさんか、このおっさん大丈夫かいな」

みたいな顔で次々と後ろを振り向く。

そして次の瞬間、おっさんは何を思ったのか、自分の手をグーにしたかと思うと、胸や腹や背中をポカポカと殴り始めた。
恐らく本人は、つっかえているあられを何とか食堂に戻そうと頑張ってるんだろうけども、例えばこの時点で乗客が乗ってきた場合、後ろの席に自分の体中をぶん殴ってるおっさんが座ってる図になるわけで、これはもう「何あのドM親父」みたいな感じでドン引き、するとその横に座ってる女の子や俺まで変態扱いされかねないわけで、この状況をどうにかせんければと思っていると、おっさんは漸くつっかえが取れたようで落ち着きを取り戻した。
しかしその落ち着き方も尋常でなく、普通なら「はぁ、はぁ」といった感じの呼吸になるはずが、「ふぁぁぶるるる、ふぁぁぶるるる」と昆虫記の先生が現れたってな感じの斬新な落ち着き方をし始めた。

それも次第に弱まっていき、最終的には「あ゛ぁぁ、あ゛ぁぁ」10年後の加藤鷹みたいなあえぎ声を出し始め、これに懲りて大人しくするやろ、思ってたら再びあられを喰い始めた。
しかも今度はさっきの伊吹吾郎のような豪快な喰いっぷりでなく、クチャクチャ、クチャクチャ云いながら食っていた。


やせいの くちゃらーが あらわれた!


かつて「仏のうーちゃん」「許容範囲広太郎」「器大之助」と呼ばれた俺でも、クチャラーだけは我慢できぬほど嫌い、どれくらい嫌いかと云うとクチャラーの父親と7年間まともに会話してないくらい嫌いなんだけども、それを朝の爽やかなバスで繰り出されたものだからこれはもう怒髪衝天、睨みを利かせてやろうとエクソシストの如くじわじわと右を向くと、隣に座っている女の子も「うんざりしている」を体現したような顔で溜息をついており、思わず抱いてやろうかと思った

さて、騒音ババア並みに色んな騒音を繰り出すこのおっさん、あられを食ってる途中に普通に演歌を歌ったり(バスで演歌を歌うのが最近の老人のトレンドなのか)、はたまたランニングに精を出している同年代のおっさんを窓から見て「元気なこっちゃ、おらぁ」と意味不明な感傷に浸ってたり、一人で色んなことをやってるんだけども、これは置いておくとして、最終的にやってはいけないことをやり始めた。

何んとそのおっさん、あられの粉に塗れた手を、隣の女の子のバッグの上で払い始めたのである。勿論、これは意図的にやっているのではなく、手を払った位置にたまたまその子のバッグがあっただけの話なんだけども、そもそも席の上で手を払う必要は無いし、バッグがあるのは見れば分かることである。
にも関わらず、「うぃー」と云いながら堂々と手をゴシゴシしている。
女の子はというと、露骨にバッグをどけるわけにもいかず、けれども「うわ何だこのジジイ、やめてキモイ、喉仏から毒キノコが生えて窒息死しろ」とでも言いたげな表情をしていた。
もしこの女の子が和田アキ子だったらおっさんの首がアラレちゃんになってたとこなんだけども、ただ学校に行くためにバスに乗っただけなのに、見ず知らずのクチャラーにバッグをあられ塗れにされた女の子を気の毒に思いつつ、その日は始まった。前途多難とはこの事だろうか。

因みにこのおっさん、競馬場の前で降りようとしてたんだけども、お金を持っておらず運転手に凄い勢いで怒られてた。女の子もさぞ「自分に嫌がらせをした人が怒られている」という至福に浸っているだろうと思って右を向くと、般若と山姥を足して2で割ったような表情で、けれどもどこか儚げな様子でバッグの粉を振り払っており、思わず抱いてやろうかと思った



いとをかし、いとをかし
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プロフィール

寂々兵

Author:寂々兵
都会の映画祭や名画座に指を咥えながら日々を過ごす、シネフィルでもマニアでもない田舎在住の一介の映画好き。たまにライターなど。ヒモになりたい。

好きな監督は
ジャン=ピエール・メルヴィル
クロード・シャブロル
エドワード・ヤン
アレックス・デ・ラ・イグレシア
岡本喜八
など。

最近は専らゼロ年代以降ヨーロッパの喜劇映画や80年代未ソフト化作品の大海をさすらっています。

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