遁世雑記其ノ二十 「ゼミ選択葛藤記(前編)」

(2011年6月記 改稿)



ゼミと云うのは大学生が少人数教育の下、専門科目の知識を身に付けたり、人生経験を豊富にしたり、新陳代謝を上げたり、合コンで良い女の子をお持ち帰りしたりするアレである。
俺の大学の学部では、ゼミは二回生の後期から始まる必修科目であり、ゼミの教師・学生とは二年半を共にすることになる。
よって、その選び方は慎重でなければならないわけであって、間違ってもダーツで決めたりしてはいけないんだけども、このゼミ選択というのが実に億劫であった。


何せ大学というのは高校と違い、各々が自由に授業を選ぶものだから、友人同士がお互いに同じだけの教授を知っているとは相限らぬのであって、要するに俺なんぞが「U准教授いいよねー、俺あのゼミ行こうかなー」と云ってみたところで、U准教授の授業を受けたことのない、ましてや存在すら知らぬ友人からすれば「誰やねんそれ、それよりH准教授の方がええやろー」となるわけである。しかし察しの通り、俺はH准教授を存ずるところではなく、この時点でゼミ選択における公平性が失われているのである。

ゼミ選択がいかに重要かと云うのは私の友人を例に出すと分かりやすい。
例えば関東に在住の友人Wなんぞは、ゼミの担当教員が厳しかったために卒論で手一杯で就活に失敗した。
また北陸に在住の友人Hは、派閥のあるゼミ教員に付いてしまったため、中間報告会では対立する派閥の教授に徹底批判されて大喧嘩になった。
或いは北海道に在住の友人Sはオリジナルレシピを書いた卒論を提出した

このように、ゼミ選択によって今後の学生生活にも何らかの影響を及ぼすことは目に見えて明らかである。
そうなると俺の脳裏によぎるのは、
「もし俺が良いと思っているU准教授が大失敗で、H准教授のゼミが最高だったらどうしよう」というジレンマであって、
そうなった場合は、U准教授のゼミが葬式ばりにしめやかに執り行われている間に、H准教授のゼミは大乱交パーティなんてやってる様を嫉妬の眼差しで見ながら発狂して爆死することになるんだけども、H准教授のゼミが乱交をやるとは限らぬのであって、こうも怯えていては夜中に一人でトイレも行けないと頭をかかえて畳の上を害虫の如く転がりまわる日々である。

話しは少しばかり遡り、2011年の6月頃というのは大学生活に慣れてきて怠惰が発生し始め、月曜から金曜の五日間、全て遅刻する週もあるという有様であった。
特に水曜の2限、M教授の授業へ行くのには特に足取りが重く、決して苦痛な授業では無いんだけども、まぁ何と言うか、要するにものすごく苦痛な授業なのである

しかし何たることかある日のこと、何故か「そうだ、今日はあの授業に行こう」と思い立ったのである。
俺はかつて、「ふと思いついたことがあればすぐに実行に移しなさい、背後霊様が導いてくださっているのよ」どこの誰かも分からないクソババアに突然説教されたことがあるため、これも人生の教訓なのだと受け取り、この授業に赴いたのである。

さて、このM教授というのが美輪明宏も驚愕して鼻血を出すほどの人生経験者で、
情報学、定量評価学、環境学、統計学を研究し、砂における宗教を多岐に渡って書物を漁り、ギリシャ語、ヘブライ語、アラビア語に明るく、戦争研究においての韓国語にも感興があり、キリスト教や仏教を研究する傍ら、バレー、ラグビー、テニス、スキーなどにも興じ、アジア、アフリカ、アラブの国を旅行するのが趣味であり喜びというとんでもなく博識で多趣味な人物なのだが、おかげで授業では何を言ってるのか全然分からない

五分前には仏教の話をしていて、ちょっと目を離した隙に今度は竪穴式住居の話をしており、もう何がなんだか分からない。

しかし、どこの誰かも分からないクソババアに受けた助言を無駄にしないよう、M教授の話にしっかりと耳を傾けていたのだが、ここで思わぬ言葉を聞いた。

「最近は日本も変わってしまって、就活とか、企業訪問とか、どうもせせこましいと云いますか、これも時代の流れと受け止めなければならないんだけども、もう少しゆったりとできないものですかねぇ。学生には、この学生の期間を大事に使って、社会に出た後のことよりも、もっと今しかできないことを色々やってほしいと思うんですよ。今ではこれじゃ、職業訓練所みたいなものですよ」

ここで、俺の頭の中で何かが音を立てた。素晴らしい。その考え方に俺は共鳴するぞM教授。
つまるところ、これまでの人生で勉学をほとんどしてこなかった俺が発言する権利など無いんだけども、ちょっとだけ云わせてください、嗚呼、ありがとう、要するに俺も最近の大学や就活の在り方を疑問視していたわけであって、それをこの教授が端的に説明してくれて、俺はどひゃひゃひゃひゃひゃとなったのである。

ここで、あのクソババアの助言が耳に浮かんでくる。
そう、俺はこの教授のこの言葉を聞くために、偶然にも早起きして授業に赴いたのであって、
それはつまり、俺がこの教授のゼミに入れば人生がうまくいくのだというご先祖様一同からのメッセージだったのである。
くくくくく、これで俺は人生怖いものなし、同じ考え方を持つM教授のゼミに行けば、
俺はプール付きの豪邸を持ち、映画鑑賞が趣味の年上でメガネでクールで変態な女性と結婚して、
その奥さんとミヒャエル・ハネケの「ピアニスト」を観ながら「この女性、マゾヒストだわ!!」と叫びながらビンタしたり、
はたまたデヴィット・リンチの「ブルー・ベルベット」を観ながら「この女性、サディストだわ!!」と叫びながらビンタされたり、
そういうアーティスティックで狂気じみた素晴らしい人生を謳歌できるのである。
浮かれた俺は、嗚呼、ゼミ選びのことで悩んでいた過去の日々が嘘のよう、小説を読み、音楽を聴き、絵を描き、映画を鑑賞し、好き放題やってきた。

六月も終盤になり、いよいよゼミの説明会が開催され、
俺は「うわーゼミ誰にしよかなー」「T准教授かS教授か悩むわー」と思案に暮れる友人たちを尻目に、
「フハハ、悩め悩め、俺は既にM教授と決めているのだ、お前たちが浮かれている間に俺が如何なる苦痛に苛まれこの結論に到達したか貴様らに分かるまい、ヒャッハー!!」戦闘中にネリエルが幼児化したノイトラくらいのハイテンションで臨んでいて、いざ説明会が始まって初めて知ったことだったんだけども、








M教授はゼミを募集していなかった。























あの……みんな……



U準教授とN準教授、どっちがいいかな……












(後編に続く)




予告

どこの誰とも分からぬクソババアは、やはりどこの誰とも分からぬクソババアだった。
もうなんだこの人生。ちょっと期待したらこれだよ。もういいよ。
どうせ人生に希望なんてないんだよ。もう分かったから帰って煎餅でも食おうぜ。

次回、ゼミ選択葛藤記後編「うーちゃん、ダーツでゼミを決める


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遁世雑記其ノ十九 「耳鼻科通院記最終回 拝啓、鼓膜殿 ご機嫌如何」

(前回のあらすじ)

大型病院にて俺が鼓膜に穴を開けるという所業を成されている間に、5年来の芸術仲間であるOさんが漫画賞を受賞しましたよ!(スペリオール新人コミックオーディション優秀賞「ポルノをかく」
Oさんは俺にとって雲の上の人物であり、ライバルであり、セフレであり、変態であり、またサミュエル・フラー、アンドレイ・タルコフスキー、はたまたロベール・ブレッソンやロバート・アルドリッチなどの話ができる数少ない友人の一人です! そんなわけなんで、皆さんはこんなクソの掃き溜めみたいなブログなんて読んでないでさっさとOさんの漫画を読みましょう! おら早く読めよ哲学書で殴るぞ サルトルで殴る





 * * *




10月8日(火)

通院が始まりました。先生の診療を受け、症状の経過を見つつ、中央治療室にて抗生剤の点滴を受けました。


10月9日(水)

通院2日目。先生の治療を受け、症状の経過を見つつ、中央治療室にて抗生剤の点滴を受けました。


10月10日(木)

通院3日目。先生の治療を受け、症状の経過を見つつ、中央治療室にて抗生剤の点滴を受けました。




なんかアサガオの観察日記の序盤みたいな殺風景な幕開けをしました、耳鼻科通院記もいよいよ最終回となりました。
通院記と銘打っているにも関わらず最終回から通院が始まるという夢野カケラの漫画みたいな感じになってますけど、ここに来て大問題が発生しまして。

通院の3日間が上記に集約されている通り、通院が始まってから何一つ面白いことがないっていうね。

とりあえず順を追って出来事を思い出していきますと、
まずは通院初日の8日、先生が変わりました。美人女医ではなくなりました。女医は女医だったんですけど、腕相撲の無敗記録を持ってそうな女医でした。
「昨日A先生に見てもらってからその後どうですか~」という導入に始まり、診察してもらった情報をフル活用して色んな説明を受けました(初診から大型病院で見てもらう利点はこの情報共有の細かさ。町医者からの紹介だとこうすんなりいかない)

で、鼓膜の穴に関しては痛みが凄かったものの、穴自体は塞がる兆候を見せているので、うまく回復すれば手術は必要ないとのこと。
あとは薬の投与で炎症を抑えるので、あと3日くらい来てくださいねーと云われ、中央治療室にて点滴。
ベッドに寝転んで、相も変わらず太い針をぶっ刺され、天井を見ながら人生について考えていると、隣から軽妙な爺さんとナースの会話が。

「わしな、今日の朝に具合悪くなったんやけど、何となく今日くるんちゃうかて思っててん。何でやと思う?」
「どうしてですか?」
「実はな、丁度先週の今日、火曜や、具合悪なってな。その前が、またその前の火曜や」
「毎週火曜に具合が悪くなるんですね~」
「そうや。周期的に具合が悪くなるんや。生理か、云うてな、ガハハハハ!!」
「それでは点滴の用意ができましたので、腕を出してくださいね~」



触れてやれよ



セクハラで訴えられかねない多大なるリスクを背負った渾身のボケがスルーされていました。
カーテンで遮られていたものの多分この時爺さんは焼き土下座が決定した利根川みたいな顔してたことでしょう。

そんなこんなで初日は終わり。


2日目の金曜も同じ先生(以降ずっと同じ)で、経過も順調で炎症も収まってきてるので早期回復が望めそうとのこと。

この日の点滴治療では、向かいのベッドに中国人カップル(兄弟?)がいました。
治療していたのは男性で、日本語が分からない様子なので、
付き添ってる女性の方が通訳をしてました。
この女性、ロックな外見の割に話し口調は穏やかだったんですが……

「……はい、ありがとうございます」
「それでは、何かあったらナースコールをお願いしますね」
「分かりました。トイレに行きたい場合はどうすればいいですか?」
「その際は、点滴ごと移動できるのでおっしゃってくださいね」
「ありがとうございます。点滴が終わるまでどのくらいですか?」
「およそ2時間30分ほど」
っだひゃぁぁあああああああ!!??



もののけが


眠気も吹っ飛びました。
調べてみると、点滴3時間以上っていうのは普通にあるらしいです(体への急激な負荷を抑えるため)

こうして思い返してみると、何もなかったと云いつつ色んなことがある通院生活です。
面白いことなんてその辺に落ちてるもんで、それをいかに笑いに昇華できるかということです。
視野を広く持って、些細なネタを見落とさないように心がけたいですね。



通院3日目。



本当に何もありませんでした



ただこの日は、回復が思ったより進んでいるので、追加分の薬を出され、1週間後の検査を残して通院は終わりました。
ヤブ医者の治療で苦しむこと1週間、やはり大型病院に行って正解でしたね。

追加分の薬は、粘膜やら染色体やらをどうにかする物ばかりらしく、ステロイドや抗生物質は終わりとのこと。
今、耳が何ともない(鼓膜再生までは自分の声が聴こえにくい)のは薬のお陰で、やめてしまったら再発するんじゃないかとの懸念もありましたが、先生を信じて1週間を乗り切ることに。
この間、先述した違和感が一向に取れず、またカサカサ音も異常にするため、不安に押しつぶされそうな日々でありました。

で、いよいよ薬もすべて切れた10月15日。
担当医は同じくディベートで押されたら拳で圧倒しそうな女医でした(かなり頼りになる)


「その後どうですか、よくなりましたか?」
「痛みは殆ど無くなったんですけど、違和感がすごいです」
「そうですか、ちょっと見てみますね」
「はい」
「…………あー、これは……」
「……どうしました」
「……鼓膜にカビが生えてますね……」







鼓膜にカビが生えている








そんなカビの生えてほしくないものランキング第1位のものに生えられても……
(2位一張羅のスーツ、3位高級フランスパン、4位ラブホテルのシーツ、5位コンドーム)




「鼓膜にカビですか……そりゃ一体どういうことなんですかね」
「症状は大したことないんです。注入薬で治せますから。原因としては……抗生剤が効きすぎたんですね。耳の鼓膜っていうのは元々良い菌と悪い菌がいるんですよ。で、悪い菌を取り除くために抗生剤治療をしたんですけど、効果が強すぎて良い菌まで死んでしまって、カビが生えてしまったということです」


ヤブ医者の抗生剤は効かずに中耳炎が悪化して、
大型病院の抗生剤は効きすぎて耳にカビが生えた。

ははっ! こりゃぁ一本とられた! 

山田くん! 座布団燃やしてしまえ




「痛みとかはあるんですかね」
「痛みはもうないと思います。注入薬を入れた直後はめまいなどの症状があるかもしれません。違和感は残るかもしれませんが、1週間薬を入れれば綺麗になりますよ」
「はぁ……」
「ということで……次回、22日にまた来てくださいね」






また来てくださいね








また来てくださいね











はい行きますよ皆さん



せーの





俺たちの通院は、始まったばかり!!
(ご愛読、ありがとうございました!)













~後日談~


完治しました




(耳鼻科通院記・完)


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プロフィール

寂々兵

Author:寂々兵
都会の映画祭や名画座に指を咥えながら日々を過ごす、シネフィルでもマニアでもない田舎在住の一介の映画好き。たまにライターなど。ヒモになりたい。

好きな監督は
ジャン=ピエール・メルヴィル
クロード・シャブロル
エドワード・ヤン
アレックス・デ・ラ・イグレシア
岡本喜八
など。

最近は専らゼロ年代以降ヨーロッパの喜劇映画や80年代未ソフト化作品の大海をさすらっています。

Twitter
http://twitter.com/CinemaYouth3919

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